
赤詰草 と 生きる⑦ 寄生する・あめりかねなしかずら
ねなしかずら という植物がいる 根無し葛 あさがおひるがおの仲間だけど 地面に張った根がなく葉もないつるだけの植物 他の植物の茎につるを巻き付けて養分水分を頂戴する 初めて見たとき だれかが工事用の水糸を丸めて捨てたんだと思った 牧草地の植生に似合わない人工的な黄色 太さも同じくらい それが植物だと気づいたとき 気持ち悪いと思った めったにそういう風に思わないたちなんだが
土に落ちたたねが目を覚まし 根を張り芽をのばす 伸びた芽はつる状 くるりくるりと回転する 回りながら他の植物に触れれば巻きつく 数日のうちに巻きつけなければそのたねはそこで終わる 運よく巻きついた芽の組織は変化して 相手植物の表皮を破り 維管束(いかんそく)*1にたどり着く 導管(どうかん)*2と相手の導管をつなげば一安心だ たねから伸ばした根は捨ててしまう 根を捨てたつるはさらに伸びて やはりくるりくるりと回転し 巻きつく相手を探すらしい 巻きついたつるにはこぶがもり上がり 伸びていくつるとは違う姿になる 青で印付けたところね これがこの種の「根」なんだな さっき葉っぱはないって書いたけど 赤矢印がたぶん葉っぱ ほんのちょろり

土着のねなしかずら属は4種知られていた うち3種がレッドデータブック入り たまに大豆畑に入って害草となっていたまめだおし(豆倒し)もあまり見られない植物の仲間入り どうやらこれが一番アメリカねなしかずら(亜米利加根無し葛)に似ていたようなのだけど 初めて遭遇した「工事用の水糸」はすでに国産種ではなく アメリカねなしかずら だったんだなあ
最初に記述したのは浅井康宏という方で1975年に発見としていたが 1960年代にはすでに入ってきていたらしい 1988年の植物研究雑誌で 同氏が「採と飼」というちょっとうれしい名前の雑誌に掲載された 佐藤茂樹氏によるまめだおしの記述を紹介している(25(5) : 32, 1963) 原報はまめだおしに生じた虫こぶを記述するものであったが 佐藤氏は寄主まめだおしの形態についても極めて詳細に記し スケッチも添えていた由 それを浅井氏が植物研究者の目で読むと これはどう見てもアメリカねなしかずらだぞ と 25年の時を経て佐藤氏の緻密な観察と記述が生きたなあ なんだかうれしい
この前紹介したやせうつぼ は 主にクローバーと生きる 赤でも白でも米粒でも 双子葉の他の草でもなんとかなるとはいえ クローバーが全くないところで生きていけるのかな それに比べたら ねなしかずら属の植物はいろいろな植物に寄生できる 特にアメリカねなしかずらは寄生する植物の範囲が広いようだ キク科、ウリ科、ナス科、シソ科、ヒルガオ科、キョウチクトウ科、セリ科、アオイ科、アブラナ科、ヒユ科、アカザ科、ツルムラサキ科、ユリ科、イネ科まで知られているそうだ あたしは赤クローバーでばかり見ているけど 赤クローバーの刈り場所を探しているからだろうな 赤クローバー畑の中には よもぎ・せんだんぐさ・せいたかあわだちそう・あかざの仲間などが伸びてくるが これらにも遠慮なく絡みついているように見える これに対し 同じようにクローバーに混じって生えるイネ科の草たち ねずみむぎ・からすむぎ・すすき・ちがやなどにはそれほど熱心に絡んでいないような気がする あと へくそかずら・あれちうり・ひるがお・くずなどのつる草にも絡んでないような気がするが これは生えているつる草の数が少なかったからかもしれない

白い愛らしい花 5つの花弁があるようだけど これは先が5つに割れているだけで 元の方がつながった朝顔みたいなラッパ型 たねが実ってくると 薄茶色でかさかさして ちいさなじゃがいもみたい アメリカねなしかずらと土着のねなしかずら属の区別はなかなか難しいらしいのだけど この たねのてっぺんに残るめしべの先っぽ2本 これは国産種にない決定的な違いらしい たねをむいてみなかったのだけど やせうつぼなんかよりはたねらしいたねが入っていそう

寄生植物は花を咲かせる以外に仕事はないって言ったけど 茎から栄養を集めるのは根っこからもらうより大変なのかもしれない 宿主の導管とつないでいるから栄養薄そうだし 最初にねなしかずらに気づいたのが6月だけど 花が咲いて実を結ぶまでかなりな勢いでつるを伸ばさないと足りないみたい とても怖い写真が7月後半 ピントないけど拡大すると花が咲いてるのが見える つくづくと種を見たのは8月になってからだな この植物ばかり追いかけているわけではないのであてにならないけど やせうつぼに比べたら勝負が長そう そして気づいた こいつが枯れ果てたときはどんな姿なのだろう 見たことがないぞ この種が多いのは一級河川 2015年の大水害以後 国土交通省が熱心に草刈りして火入れまでしちまう河岸だもんだから 枯れた姿が見られなかったんだ なるほど そうまでされても負けずに毎年生えてくるんだなあ 根っこもないのに
維管束(いかんそく)*1:
植物組織には、水や水に溶けた養分を運ぶためのくだがある。このくだは植物の体の形を維持するはたらきもある。このくだは束になっていて、この束が植物の表皮のすぐ内側を根の先からてっぺんの芽、脇芽や枝、さらに葉柄を通って葉の隅々まで、つぼみや花にまで走っている。この、くだが束になった組織を維管束という。
導管(どうかん)*2:
維管束には水分を根から芽や葉の尖端へと送るくだと、光合成により作り出したでんぷんなどを貯蔵組織に集めるくだがある。水(と、土からとれるミネラル)を運ぶくだが導管(どうかん)で、義務教育では当用漢字を使って「道管」と表記する。植物の葉から水分が蒸発すると、水が減った分が負の圧力となり根から水を吸い上げることができる。このしくみで植物の地上部の隅々にまで水を送り届ける。導管は死んだ組織であって固く木質化しており、植物の茎や枝、葉などの形を支える骨としての役割も持つ。これに対し、栄養を運ぶくだである篩管(しかん、ふるいかんとも 義務教育では「師管」)は、生きた細胞の連なりであり、糖などの大きな分子を、必要とする場所に、上下左右、自在に輸送できる仕組みを持っているが、その仕組みはとってもややこしいので導管のようにざっくりとは説明できないよ。
同じ寄生植物でも、やせうつぼは宿主の篩管とつなぎ、ねなしかずらは導管とつなぐ。やせうつぼは自前の根があり自分の導管には送水圧力がかけられるけどねなしかずらにはそれがない。だからねなしかずらが導管をつなぐ理由は送水圧が問題なのではないかなと思うのだけど、ウェブで簡単に出てくる話ではありませんでした。だれかご存じの方、教えてください。

コメント
確かにこれはゾーっとしますね。
本当にまるでカラス除けみたい。色も。
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