
なぁ~んだッ?!
夏中ぼうぼうだった庭の草を片付けていたらこんなものを掘り出しちまいましたの。
なぁ~んだっ?

なんと!カラスウリでした!
カラスウリもデンプンたっぷりのお芋を作るんですよ。写真は株もとにできたお芋ですが、晩夏にはつる垂れさがるように下に伸び、先が接地すると地下に伸びてお芋を作るなどというけったいなことをします。今年はウリ科にはつらい夏で、キュウリの値段は高止まり、地場もんのやっすいゴーヤーが出回らず、うちのカラスウリもあまり伸びず、残念ながらつるの接地は見られませんでした。

イモの皮がガサガサなので堅いかなと思ったけど、包丁で簡単に切れました。皮剥いてかじってみました、死ぬほど苦かったぞ!すごくきゅうり臭いし。ウリ科の苦み成分はステロイドで、ククルビタシンといいます。AからTまでの20種類あり、主にウリ科植物各種から発見されたものですが、キノコから得られたものもあります。大量に食べるとおなかを壊します。包丁に白くデンプンがついているのが見えますか。おろし金でおろして水にさらし、デンプンを取ってみましょう。おろしたイモをすり鉢にいれ、水を加え、すりこぎでとんとんと叩いてよく潰してから、手ぬぐいを二重にして漉し、さらにボウルの水の中でよく振り、ぎゅっと絞って新しい水の中で振ってみました。

3回目には水があまり濁らなくなったので振り出しはこれで終わりとし、ボウルの水に上澄みが出てくるのを待って捨て、3つのボウルの中身を一つに寄せました。とろりとした上澄みを捨て、きれいな水を足して混ぜ、また上澄みを捨てることを3回繰り返しました。まだ濁りは出るんだけどデンプンも流しちゃっているようなのでデンプンを回収することにしました。

コーヒードリッパーにペーパーフィルターをかけ、ボウルの水をかき混ぜて底にたまったデンプンを水に浮かし、フィルターに流し込みました。コーヒーフィルターって、実験用のろ紙よりも目が粗そうな気がする。月並みな2番のろ紙で保持粒子径5μmだっていうから、カラスウリのデンプン粒が細かいと抜けてしまうかなと心配になり、漉されて落ちた水を見ました。わずかなデンプン?が底にたまっていますが、ほんのわずかであるようなので気にしないことにしました。ところがしばらくほっといたらフィルターの目が詰まって水が落ちなくなりました。フィルターをもう一枚用意して、溜まった水を移し、無事に白い粉を漉し取りました。

得られた白い粉がデンプンであるかどうか確認します。小学校でやりますよね、「ヨウ素液」を使った実験。ヨウ素液ってどこで買えばいいの、って、普通のご家庭にあることも多いんですが。コロナがらみで最近話題になったうがい液やのどに噴射するスプレー、あれでいいんですよ、ポビドンヨード。

はい、デンプンであることが確かめられました。少ししなびたイモ70gから14.3gのデンプンが取れました。まあ、デンプン以外の成分も混じっているでしょうし、水分も完全に取れてはいないでしょうが、文献上の収率*と大きく違わないいい数字です。

このデンプンは粒がとても細かく滑らかでした。家にあるばれいしょでんぷん、コーンスターチ、くりでんぷんと触り比べてみると、カラスウリ = コーンスターチ = くり << ばれいしょ ばれいしょとの違いはわかるんだけど、あと3つはわからないなあ。顕微鏡でもあると確認できるんですけどね、今持ってなくて。
近縁種のキカラスウリの根はかつてベビーパウダーの原料でした。イモをつぶして水にさらしてデンプンを取って利用します。明治生まれの祖母はベビーパウダーを「天瓜粉<てんかふん、天花粉とも>」と呼んでいました。「うり」って字、入ってますね。ちなみに昭和一桁の母は「シッカロール」和光堂の商品名ですな、ラテン語起源でかっこいい。こちらにはコーンスターチが使われています。きめの細かいキカラスウリデンプンは、赤ちゃんの柔らかい肌に滑らかに広がる良い素材であったのでしょう。文献によればカラスウリデンプンは粒子径がコーンスターチ並なので、キカラスウリより優秀なのではないかと思われるのですが、キカラスウリの方がイモが大きく収穫が楽だというような別の事情があったかもしれませんね。
また、キカラスウリは生薬原料として幅広く利用されますが、カラスウリは飢饉の時の食糧としてデンプンを利用した例がある程度で、実や種の利用もあまりないみたい。中国では生薬として使われる「カラスウリ」の仲間のくくりが日本と異なるようで、カラスウリ、オオカラスウリも区別しないで使われているようですが確かなところはわかりませんでした。

夜の闇に浮かぶように咲く、カラスウリの花。左が雌花、右が雄花です。繊細なレース飾りは朝にはしぼんでしまうから、夜のお散歩のお楽しみ。雌花の中央に3つに分かれた柱頭(ちゅうとう:めしべの先端の、花粉を受け取るところ)が見えますか。雄花中央のおしべは分かれているように見えません。もっと確かなのは、花の根元を見ること。雌花の付け根には小さなうりがついていますよ。
ウリ科の植物は花粉を作る雄花と実をつける雌花が分れていますが、雌雄の花は同じ株につく「雌雄同株」が普通です。きゅうりもかぼちゃもひと株で実をつけることができます。カラスウリは例外で、雄花しかつけない雄株と雌花だけつける雌株に分かれています。「雌雄異株(しゆういかぶ)」ですね。雌雄異株といえばキウイフルーツやイチョウ、山椒など実を収穫する木本植物が目立ちますが、草本植物ではアスパラガス、ホップが雌雄異株です。
雌花が受粉すれば実がなります。

未熟の果実は形もしましまもウリ坊みたいでなかなかかわいい。

実が熟す頃には、からみついていた薮や木立が枯れたり 落葉したりするので、実った実が良く目立ちます。晩秋のオレンジ色の日差しが鮮やかな朱色をひきたてます。
DSC_0632[/caption]
最後に、たね。ひょうきんでしょう?筆者はコアラだと思ってるんですが、ウェブで「カマキリの頭」と表現している人がいました。それも、似ているなあ。

おまけ。カラスウリの雄花を食べることで知られている「ミスジミバエ」です。
ミスジミバエはここ数年、11月に入ると我が家の座敷に現れます。初めは、カラスウリの実を集めて種を取ったりして遊んでたからかなと漠然と思っていたのですが、そうではなくて、越冬のための仲間と場所を探して入ってくるのではないかと気づきました。ミスジミバエは成虫が集団で越冬しますが、越冬場所として放棄されたくもの巣を利用するそうです。居間の電灯に毎年オニグモが巣食い、家人がこれを保護するので、居間に絶えずくもの巣があるのが原因かもしれません。ガラス越しに撮った写真なのでよくないのが残念。スマホカメラでガラス越しに焦点を据える方法ありませんか?地味ながらよく見れば美しい虫なので、「ミスジミバエ」で検索してください。ウェブにはいい写真がたくさんあります。

ミバエさんのお仲間は作物の果実に卵を産むため大害虫とされ、永らく人間さんと戦ってきました。「ウリミバエ」さま、「チチュウカイミバエ」さまは、金属光沢のある大きな目、模様のある翅、ふっくら丸い腹や胸背を飾る縞や斑紋などをもつ、華やかにお美しい方々。ぜひ検索してご覧くださいまし。
*カラスウリのデンプンについての研究論文見つけました。ほかの植物のデンプンについても粒子径の数値があったので一覧表にしてみました。参考文献リスト代わりね。

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