毛犬稗(ケイヌビエ)  とその仲間にまつわることども
いばらき 花草虫 ~ 一覧 ~

毛犬稗(ケイヌビエ) とその仲間にまつわることども

牧場に1か所だけ毎年ケイヌビエの生える場所がある
今年は生育良好 立派な草むらになった
※写真は2019年9月8日撮影

イヌビエ ヒメイヌビエ タイヌビエとともに水田雑草には数えられる草 分類上イヌビエとヒメイヌビエと同種 (Echinochloa crus-galliの亜種)とするのが一般的だが異説はいろいろある 見た目が相当違うから

まずケイヌビエはもみに生えている毛*が長い 次にはでかい 1m以上になる そして水田にはあまり生えない 水田に生えたらいかにものっぽだろう 

ヒエの仲間は湿地や水辺を好む 水田に多いのはイヌビエとタイヌビエ 水田に水が入り田植えが始まるころに土の中の種が目覚める はじめは移植された稲よりずっと小さいわけだ 草はすくすく育って稲と肩を並べる こうなると穂が出るまで区別が難しい 特にタイヌビエは稲に擬態しているといわれるほどよく似ている 擬態したとして 人間が水田作を始めてからの話ってことになる 案外早くできるんだ擬態 ああそうか 人間が強力に淘汰したからか

ヒエの種は光が当たると発芽する性質がある また 発芽時に酸素がたくさん欲しい だから 地中深く埋まった種は発芽できないし 水が深いと酸素が足りなくて育たない 耕起によって種を埋めてしまうこと 田植え後の深水管理 はヒエの防除には有効だ もちろん田植え同時除草剤を使ってもいい 除草剤の効果は稲の葉が田面を覆い 水面に光が届かなくなる頃まで期待できる さればその後の発芽はないわけだ

・・・ないわけなんだがやっぱり生えてくる そしてあっという間に稲に追いつき 稲に先んじて穂を出して先に実り 稲刈りまでには種をばらまき終わっている 人間としては種をばらまかれる前に始末して来年に備えたい かくて梅雨明けからの「ひえ抜き」が必要になる そのころならヒエの穂が出て稲より頭一つ高くなるからわかりやすい わかりやすくても炎天下の過酷な作業である ヒエを根っこごと引き抜いて ちゃんと枯れるように路側などで日にさらす

ヒエの種は穂の下の方から実り 実ればぽろぽろ落ちる この性質を脱粒性(だつりゅうせい)という 作物の場合この性質はあまりありがたくない 圃場内で粒だけ集めて回る羽目になるし 収穫期間はだらだらと長い 穂ごと茎ごと一気に取れる方が楽だ イネも脱粒性を克服するような改良が行われてきた 一方野草の方は 一粒でも多く地面に到達し 刻々と変化する環境に適応する可能性を高めておきたい 

タイヌビエとイヌビエは田んぼ以外でもよく見る ケイヌビエは牧場でしか見たことがない ヒメイヌビエは認識できてない 田んぼで増えることでそれ以外の場所でも幅を利かせられるということがあるのかな

美容と健康のための雑穀食が話題になる 人間の食用ヒエはイヌビエを作物化したもの 水田でも畑でも作れる 明治時代まで北海道 東北 関東を中心に全国的に食用としての栽培があった 「ヒエ」の名は「冷え」からきており耐寒性に優れることを示すという 同じ雑穀仲間のアワも同様に広く栽培されていた アワに比べヒエはもみ殻が強固で 殻を取る(脱稃<だっぷ>)が厄介で 殻の残りが多くなれば保存性が落ちるし とことん殻を取ろうとすれば粒が砕けるなどして歩留まりが下がるといった欠点がある ちなみにアワはエノコログサを作物化したもの

*:もみの毛のことを「のぎ」(漢字では禾または芒)という 今はイネ科と呼ばれる植物群を以前は禾本科(かほんか)と呼んでいた 

投稿者

ゆ

茨城県

コメント

  1. おこめ おこめ

    >案外早くできるんだ擬態 ああそうか 人間が強力に淘汰したからか
    これは、稲に擬態できなかった種を人間が除草したので、擬態できた種(タイヌビエ)が結果的に残った、ということでしょうか?

    • ゆ

      多様な水田雑草種の中でタイヌビエが擬態によって生き残った・・・そういう見方があったのね、おこめさん!でも、あたしが上のを書いたときに思ったのは、ちょっと違っていて、タイヌビエが擬態種として成功するまでの月日のことです。都合よく変わろうと思って、そうすぐすぐ変われるもんかな、って。舌足らずでごめん。

      「タイヌビエは稲に擬態しているといわれる」という記述をウェブで読んだとき、ほんとにそうだ、よく似てるよなーと思う一方で、昆虫のベイツ型擬態を思い浮かべたのね。アブやカミキリムシのような弱い虫が、スズメバチのようなこわい虫に姿かたちを似せて、主に鳥の攻撃から逃れるというようなやり方です。

      スズメバチという種が成立したのはいつごろか、正確にはわからないけど、2億年くらい前だとして、擬態種が出現したのは最も早くて2億年にちょっと足りない月日から今までのある時点。スズメバチがその毒でもって生き残り、居場所を確保してからでなくては、マネしても意味がないものね。変異が起こるのは確率の問題なんで、たくさん起きるし昨日起きてるかもしれないけど、生まれた変異種のうちが居場所を確保して生き残れるのはほんのわずか、種として成立するものが現れるまでには、千年万年十万年の長ぁい期間を経ているんではないかな、と漠然と思っていたのね、数字にはあまり根拠はないけど。

      「擬態したとして 人間が水田作を始めてからの話ってことになる」タイヌビエが稲に交じって生育し、かつ害草として攻撃されなければ、攻撃の回避手段は必要ない。原初の稲作は、稗やその他のイネ科が混じって生えている湿原で、食べられるものはみんなとるというような形だったらしいから、日本人が稗の防除に本腰を入れるようになったのは稲の単作化が進み、移植が一般化してからで、せいぜい1000年くらいなんじゃないかと思います。1000年って、昆虫の例と比較するといささか短いんではないか、「案外早くできるんだ擬態」。

      けど、タイヌビエの場合、スズメバチの擬態種たちと違って、種そのものが変わらなくてもいい。種の中での、個体差の範囲で、よりイネに似たもの増えればいい。そして、「淘汰圧」この場合なら擬態の必要性 が高ければ、その期間は短縮できる。品種改良がそうでしょ、せいぜい数十年で望む性質を固定する。植物種が淘汰されたんではなく、タイヌビエの形質の選抜が起こった。「ああそうか 人間が強力に淘汰したからか」という風に考えたのよ。

      長くてごめん、わかってくれたかな?




---------- OR ----------