マダニ・このムシにピンときたら…かなりやばい

マダニ（真蜱）が取れました。物騒なので死んでから撮影したらあんまりよくない、大きさの感じだけでも。娘が庭木を切ってくれたんですが、髪を洗っていたら何やら取れたと持ってきました。うわあうわあ。噛まれる前でよかった。

マダニは細菌のコクシエラ、スピロヘータ、リケッチア、ウィルスと、病原体の宝庫であります。中でも、近年はウィルス病である重症熱性血小板減少症候群（SFTS)による死者が出て、マダニに対する警戒の必要性が高まっています。この病気は、症状として38度以上の発熱、腹痛下痢などの消化器症状、頭痛、筋肉痛などの神経症状、リンパ節の腫れが認められます。血液検査をすると血小板と白血球の減少が認められ、血中酵素AST、ALT、LDHは上昇します。確定診断はウィルス遺伝子の検出またはウィルス抗体の上昇ですから専門機関に持ち込むことになるのでしょう。治療法としては対症療法のみ、ワクチンなどの確実なものはまだありません。現在患者が確認されているのは関西以南ですが、関東のダニからもウィルスは検出されていますので、用心は必要です。

マダニは植物が生え、哺乳動物が生きているところであればどこにでもいると思ってください。馬もやぎもたかられますし、犬や猫、うちの猫が捕まえてくるねずみやうさぎにもたかります。皮膚に深くくちばし（ムシの場合、口器＜こうき＞といいますが）を差し込み、血を吸えるだけ吸ったらポロリと落ちます。2㎜以下の幼いダニは3-7日間、3㎜程度ある大人のダニは1-2週間、動物の体にとどまります。大人の雌ダニが産卵のために吸血すると、体長で約3倍、体重は100倍ほどになります。1円玉の内側の輪っかくらいの感じで、厚みがあります。

噛まれないように用心することが最も大切です。ダニは地上に卵を産み、幼虫が孵化すると周りの植物にのぼり、てっぺんで動物が通りかかるのを待ちます。炭酸ガスや体温に反応して動物に取り付きます。前に述べたように腹いっぱい吸血したら地上に落ち脱皮します。脱皮した若虫もまた草にのぼり同じことをします。成虫も同様。ですから、畑仕事も山遊びも、長袖長ズボン、長靴手袋は必須。虫よけ剤も有効です。合成品のディート、イカリジン製剤は最も安定して効きます。天然物のハッカ類、ユーカリ精油、レモングラス精油、シトロネラ精油なども効き目は高いのですが、特に手作り品は汗で流れやすいのでまめにつけ直しましょう。ズボンのすそや靴下のくるぶしなど、衣服にしっかりつけるのも、精油の場合にはいい方法です。農薬にも蚊取り線香にも使われるピレスロイドも有効です。人間の皮膚に使える製品はありませんが、家畜ではペルメトリン乳剤があり、有効成分0.02-0.01%に希釈して獣体に直接散布することができます。

それでも噛まれたら、あわててダニを取ってはいけません。皮膚科か外科の先生にお願いしましょう。無理に引っ張るとダニの体がちぎれて、くちばしが皮膚の下に残り、治らない傷口になってしまいます。その場合も医師に相談するのが賢明です。昔の人はタバコの火を近づけて自主的に逃げていただくなどしてましたが、この嫌煙の世の中ではそれもねえ。

重症熱性血小板減少症候群の潜伏期間は分っていないみたいなんですが、ともあれ、畑仕事山遊びの後、高い熱が出た場合、ダニに噛まれた自覚がなくても、医師にそれを告げましょう。現代の若い医師はこういった感染症に疎いので、その可能性を指摘しなければ調べようと思いませんから。風邪の処置をして熱が下がらないとか、血液検査の結果が変というようなことがあれば、わかるお医者さんに診てもらう必要が出てきます。重症熱性血小板減少症候群には対症療法しかないとはいえ、体力が落ちる前に始めた方が当然効果は高いのです。

皆さん、自然は優しくなんかありませんよ。その懐に抱かれて癒される前に、ズボンのすそに虫よけをたっぷり吹き付けてくださいね。